Management Leader Web Magazine (会員限定)

2013年01月18日

職場円満プロジェクト【コンプライアンス】

コンプライアンス違反の起きにくい健全組織の作り方【前編】

コンプライアンスに関する8つの素朴な疑問に、笹本雄司郎氏が明快回答!

すでに多くの企業で実施されている「コンプライアンス」研修。コンプライアンスとは、単なる法令順守ではなく、意識の問題ともいわれるが、ではいったいどう職場で実践していったら、コンプライアンス違反を起こさなくて済むのかと、悩んだことはないだろうか。ボーダーラインのあいまいなこの問題について、8つの素朴な疑問をコンプライアンスに関する研修を多数手掛ける、株式会社マコル 取締役・代表コンサルタント、笹本雄司郎氏にぶつけてみた。

 

 

 

1、 コンプライアンスってなんのこと?

 

 

 

笹本氏プロフィール.png 今年10月、東日本大震災の復興予算の「流用」が次々と明らかになりました。たとえば、反捕鯨団体シー・シェパードの妨害活動に対する安全対策費23億円は、「南極海の鯨肉の安定供給が鯨肉加工の盛んな石巻市周辺の復旧・復興につながる」というのが政治家や官僚の説明です。こんな詭弁では、被災地復興の支援を信じて増税を受け入れた国民の怒りは収まりませんね。これらは官僚のコンプライアンスが問われている事例といえるでしょう。

 

 

現実の社会では利害関係の異なる人々が折り合いをつけながら暮らしています。ルールに違反しなくても、自分勝手と感じられることや我慢している人がだまされたと感じることは無限にあります。ですから、唯一無二の答えがない問題にも、相手の立場を理解して精いっぱい配慮する姿勢を、社会は「誠実」と評価するのです。

 

 

「法令を順守して誠実に行動します」というスローガンが陳腐に感じられるのは、現実の社会での利害衝突や人間心理の複雑さを良識ある大人は理解しているからでしょう。コンプライアンスの本質は、ルールでは解決できない利害の相克について、何が社会にとって善い行いかをよく考えて、組織が正しく活動することにあると考えてください。

 

 

 

2、 コンプライアンス違反に「なる」か「ならない」かの分岐点は?

 

 

 

昨年7月の某電力会社の「やらせメール事件」を覚えていますか? 原発再開の県主催説明会に際して、役員から指示を受けた課長級社員が、自宅から賛成メールを送るよう社員等に呼び掛けた事例です。

 

 

事業を請け負う民間会社が政策を促進する世論作りに協力する例は珍しくありません。賛成メールを呼び掛けた課長級社員は、ある意味で真面目な社員だからこそ、上司の命令に忠実だったと想像できます。では、なぜやらせメール事件はマスコミや国民から厳しい批判を受けたかというと、その理由は当時の「社会の空気」の急激な変化だったと私は考えています。文章化されたルールであれば事前に予測可能ですが、「社会の空気」は読み切れない難しさがあります。

 

 

現実の社会では、ほめられた行為ではないにしても、ものごとを円滑に進めるために、多少節を曲げた方が無難なことはあります。グレーゾーンから遠ざかり、リスクを一切取らないという選択肢もありますが、そうでない選択も一概に否定できません。この場合、そうした行動を許している「社会の空気」がどう動いているのか、どのような言動に注意すべきかを役職員で共有して、慎重な態度で事業にあたりませんと、とんだ落とし穴にはまりかねません。

 

 

社員一人ひとりが自分の判断力を過信せず、互いの意見に聞く耳を持つ、専門家や第三者の意見を仰ぐ、といった謙虚さを忘れないことが本当の「責任」なのではないでしょうか。

 

 

 

3、 「仲良しクラブの職場」 はなぜだめなのか?

 

 

 

一昨年、某地方自治体で職員が外郭団体の資金を横領する不祥事が発生しました。今年3月に公表された検証報告書によると、団体経理を当人だけに任せ、管理者への報告を求めず、支払の遅延がわかってからも原因追及や注意・指導を行っていなかったそうです。

 

 

この報告書で重要なのは、そうした任務怠慢の背景に、職員間のなれ合い、遠慮、事なかれ主義、不干渉など「職場のモラル低下」が影響していたと述べられている点です。

 

 

良識ある人々でも集団になると、他人任せになったり、有力者に同調したり、逸脱者を排除したり、果ては自集団を万能・無敵と感じて、信じ難い決断を下したりします。読者のみなさんも心当たりがあるのではないでしょうか。

 

 

実は、これらは行動心理学の実験で論証された人間の「実像」なのです。コンプライアンスは、役員や社員を清く正しい人間に変革することではありません。人間の意識や価値観は簡単には変わりません。ですから、人間は誘惑に弱いことを前提に、監督・牽制や褒賞と罰によって「必要な行動」に集約していく経営管理がコンプライアンスなのです。

 

 

「なれ合い」や「遠慮」は、不祥事を生んだり、問題の表面化を遅らせたりする諸悪の根源です。よくいわれる「風通しのよい職場」は、仲良しクラブの職場ではありません。正しくは「ありがとう、注意してくれて助かったよ」と素直に感謝し合える職場の意味です。そうした大人の組織であれば、誰でも安心して働くことができますね。

 

 

 

 

4、 従業員満足度を上げれば、コンプライアンス違反は起こらないか?

 

 

 

5年前、某洋菓子メーカーの食品安全・衛生管理に世間の批判が集まる事件がありました。同年3月に公表された信頼回復対策会議の最終報告書9ページ以下では、衛生管理よりもコストダウンや生産性向上を重視する経営陣の意識を生産現場で働く従業員たちも察していて、「何をいっても変わらない」というあきらめの意識が蔓延していた、と述べられています。確かに、経営陣と現場部門とが連携していれば、もっと早い段階で問題の改善が進んでいたかもしれません。

 

 

反対に、経営陣や上司を尊敬できず、仕事や職場への愛着もなければ、社員が自分勝手で無責任な行動に走る危険は高いと考えられます。そのため、従業員満足度を向上させて、この会社でずっと働きたいと思ってもらえば不祥事は減少する、と考える方もいます。

 

 

しかし、世の中は仕事や職場に恵まれた人たちばかりではありません。多くの人は、会社への満足度よりも自分と家族の生活維持や素朴な正義感から「心のブレーキ」を踏んでいるのではないでしょうか。

 

 

その一方で、経済的に恵まれているはずの大企業の幹部社員が、公私混同や破廉恥な犯罪に走るケースも次々報道されています。人間の欲望には際限がありません。よい環境を提供すれば不祥事はなくなるという考え方は幻想に過ぎないといえるでしょう。

 

 

 

⇒ コンプライアンス違反の起きにくい健全組織の作り方【後編】

 

 

 

(この記事は2012年10月26日公開のものです)

 

 


 

PAGE TOP