コラムBOX

2014年05月19日

有給休暇の買取と時季指定

会社が年休の買取や休暇の時季を指定することは可能なのか?

有給休暇の買取と時季指定

 

会社が年休の買取や休暇の時季を指定することは可能なのか?

有給休暇の買取と時季指定
年休の買取や休暇の時季を会社が指定することは可能なのか?
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著者:
つなぐナビ登録士業
弁護士 石居 茜 (いしい あかね)
ロア・ユナイテッド法律事務所 パートナー弁護士
http://www.loi.gr.jp/
会社の経営者の方から、次のような質問を受けることがあります。
(1)従業員から年次有給休暇(以下、年休といいます)の買取を要請
されたのですが、応じなければいけないのでしょうか。
(2)従業員が年休の取得を申請してきたのですが、
会社の業務に支障が出てしまいます。
別の時季に取るよう求めることはできないのでしょうか。
まず、(1)の年休買い取りについてです。
年休は、労働者の心身の疲労を回復させ、労働力の維持培養を図るために、一定期間継続勤務し、一定割合出勤した労働者に対し、労働基準法が、休日以外に、毎年一定日数の有給休暇を取得する権利を与えたものです。
具体的には、労働者が、6ヶ月間継続勤務し、その6ヶ月間の全労働日の8割以上を出勤した場合には、継続し、または分割した10労働日の有給休暇を与えなければならないとされています(労基法39条1項)。
このように、年休は、労働基準法上認められた労働者の権利であって、従業員は、原則として、好きなときに、年休を取得することができます。
取得の理由を会社に示す必要もありません。
年休は、労働基準法が、労働者の心身の疲労回復や労働力の維持培養を図るために労働者に付与したものであるので、会社が年休を買い取ることは原則として違法となります。
年休の買取を認めると、金銭による買取をする会社が出てきて、労働者に休暇を取らせるという法の趣旨に反するからです。
従って、在職中の従業員に労働基準法上付与されている年休の買取については、違法であるから応じられないということになります。
ただし、会社が、労働基準法で定める年休を超えて、従業員に年休を付与している場合に、労働基準法で定める年休を超える年休については、買取を認めることを会社が設計することは自由です。
また、年休の取得請求権は2年で時効となるため(労働基準法115条)、時効により消滅した年休の買取をすることは違法ではないと解されています。
退職時に残った年休を買い取ることについても、退職によって消滅してしまうことから、買取をしても違法ではないと解されています。
しかし、会社において、年休を買い取る義務はありません。
よって、例えば、退職時に従業員から年休の買取を求められたとしても、会社は買い取る義務はなく、対応は自由ということになります。
また、買い取る場合でも、買取価格が法律上決まっているわけではないので、買取価格の設計についても、会社の自由ということになります。
次に、(2)の年休の取得時季についてです。
前述のとおり、年休取得請求権は、労働基準法上労働者に付与された権利ですが、労働基準法は、会社は、請求された時季に年休を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合は、他の時季に与えることができるとしており(労働基準法39条5項)、会社の時季変更権を定めています。
もっとも、会社の時季変更権の行使が認められるのは、客観的に見て相当な事情がある場合に限られ、会社には、従業員が希望日に取得できるよう配慮する義務があるとされています。
裁判例では、会社はできる限り従業員が指定した時季に休暇をとることができるように状況に応じた配慮をすることを要請されるとし、代替者の配置について勤務割による勤務体制が取られている場合であっても、代替勤務者を確保して勤務割を変更することが客観的に可能であるのに会社がそのための配慮をしなかったために代替勤務者が配置されなかったときは、必要配置人員を欠いたからといって事業の正常な運営を妨げる場合に当たるとはいえないと判断したものがあります。
他方で、長期かつ連続の年休の取得申請に対しては、会社の時季変更権の行使が認められることがあります。
裁判例で次のような事案があります。
新聞記者が、欧州の原子力発電問題を取材するためとして、1ケ月間(そのうち、年休取得は24日間)の休暇を申請した事案で、会社は、事業の正常な運営を妨げることから2週間ずつ2回に分けて取ってほしい旨要請し、時季変更権を行使しましたが、従業員は当初の届通りに欠勤したため、会社により、けん責の懲戒処分に処せられ、その効力が争いになりました。
最高裁は、従業員が、会社の業務計画、他の従業員の休暇予定等について事前の調整を図ることなく、長期かつ連続の年休の時季指定をした場合には、会社の時季変更権の行使については、休暇が事業運営にどのような支障をもたらすか、休暇の時期、期間についてどの程度の修正、変更を行うかについて、会社にある程度の裁量的判断の余地を認めざるを得ないとしました。
そして、その事案では、24日間の年休取得請求に対して、その後半の半分について会社が行った時季変更権の行使は適法と判断しました。
つまり、従業員が、長期かつ連続の年休取得の申請を行った場合には、会社との間で、会社の業務計画、他の従業員の休暇予定等について事前に調整を図る必要があり、従業員が、この調整を行う余裕がない時季に年休取得を申請したり、会社からの調整に全く応じないような場合には、会社は、合理的な範囲で時季変更権を行使すれば認められると考えられます。
もっとも、長期かつ連続の年休取得でなければ、時季変更権の行使はハードルが高いといえます。
労働基準法では、労働者の過半数代表との協定により、年休5日間以上を従業員が自由に取得できるようにすれば、残りの年休については、計画的に付与することが認められています。そのため、時季変更権を行使で対応するのではなく、計画年休の付与によって、繁忙期以外に年休を付与したほうが対策としては有効と思われます。
また、平成22年4月1日施行の改正において、労働者の過半数代表との協定により、年に5日を限度として、時間単位で年休を与えることができることになりました。通院治療や介護の付添など1日すべて休む必要がない場合などに、このような時間単位の年休制度を導入して、年休の取得促進を図るのも1つの方法です。
<関連記事>
営業社員には残業代を支払わなくてもよいか
http://www.mng-ldr.com/column/2014/04/21/post-20.php
年俸制の場合、残業代は発生するのか
http://www.mng-ldr.com/column/2014/04/28/post-21.php

 

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著者:

つなぐナビ登録士業

弁護士 石居 茜 (いしい あかね)

ロア・ユナイテッド法律事務所 パートナー弁護士

http://www.loi.gr.jp/

 

 

会社の経営者の方から、次のような質問を受けることがあります。


(1)従業員から年次有給休暇(以下、年休といいます)の買取を要請されたの

ですが、応じなければいけないのでしょうか。


(2)従業員が年休の取得を申請してきたのですが、会社の業務に支障が出て

しまいます。別の時季に取るよう求めることはできないのでしょうか。


■年休の買取について

 

まず、(1)の年休買い取りについてです。


年休は、労働者の心身の疲労を回復させ、労働力の維持培養を図るために、一定期間継続勤務し、一定割合出勤した労働者に対し、労働基準法が、休日以外に、毎年一定日数の有給休暇を取得する権利を与えたものです。


具体的には、労働者が、6ヶ月間継続勤務し、その6ヶ月間の全労働日の8割以上を出勤した場合には、継続し、または分割した10労働日の有給休暇を与えなければならないとされています(労基法39条1項)。


このように、年休は、労働基準法上認められた労働者の権利であって、従業員は、原則として、好きなときに、年休を取得することができます。取得の理由を会社に示す必要もありません。


年休は、労働基準法が、労働者の心身の疲労回復や労働力の維持培養を図るために労働者に付与したものであるので、会社が年休を買い取ることは原則として違法となります。年休の買取を認めると、金銭による買取をする会社が出てきて、労働者に休暇を取らせるという法の趣旨に反するからです。


従って、在職中の従業員に労働基準法上付与されている年休の買取については、違法であるから応じられないということになります。


ただし、会社が、労働基準法で定める年休を超えて、従業員に年休を付与している場合に、労働基準法で定める年休を超える年休については、買取を認めることを会社が設計することは自由です。


また、年休の取得請求権は2年で時効となるため(労働基準法115条)、時効により消滅した年休の買取をすることは違法ではないと解されています。退職時に残った年休を買い取ることについても、退職によって消滅してしまうことから、買取をしても違法ではないと解されています。


しかし、会社において、年休を買い取る義務はありません。


例えば、退職時に従業員から年休の買取を求められたとしても、会社は買い取る義務はなく、対応は自由ということになります。


また、買い取る場合でも、買取価格が法律上決まっているわけではないので、買取価格の設計についても、会社の自由ということになります。



■年休の取得時季

 

次に、(2)の年休の取得時季についてです。


前述のとおり、年休取得請求権は、労働基準法上労働者に付与された権利ですが、労働基準法は、会社は、請求された時季に年休を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合は、他の時季に与えることができるとしており(労働基準法39条5項)、会社の時季変更権を定めています。


もっとも、会社の時季変更権の行使が認められるのは、客観的に見て相当な事情がある場合に限られ、会社には、従業員が希望日に取得できるよう配慮する義務があるとされています。


裁判例では、会社はできる限り従業員が指定した時季に休暇をとることができるように状況に応じた配慮をすることを要請されるとし、代替者の配置について勤務割による勤務体制が取られている場合であっても、代替勤務者を確保して勤務割を変更することが客観的に可能であるのに会社がそのための配慮をしなかったために代替勤務者が配置されなかったときは、必要配置人員を欠いたからといって事業の正常な運営を妨げる場合に当たるとはいえないと判断したものがあります。


他方で、長期かつ連続の年休の取得申請に対しては、会社の時季変更権の行使が認められることがあります。


裁判例で次のような事案があります。


 

新聞記者が、欧州の原子力発電問題を取材するためとして、1ケ月間(そのうち、年休取得は24日間)の休暇を申請した事案で、会社は、事業の正常な運営を妨げることから2週間ずつ2回に分けて取ってほしい旨要請し、時季変更権を行使しましたが、従業員は当初の届通りに欠勤したため、会社により、けん責の懲戒処分に処せられ、その効力が争いになりました。


最高裁は、従業員が、会社の業務計画、他の従業員の休暇予定等について事前の調整を図ることなく、長期かつ連続の年休の時季指定をした場合には、会社の時季変更権の行使については、休暇が事業運営にどのような支障をもたらすか、休暇の時期、期間についてどの程度の修正、変更を行うかについて、会社にある程度の裁量的判断の余地を認めざるを得ないとしました。


そして、その事案では、24日間の年休取得請求に対して、その後半の半分について会社が行った時季変更権の行使は適法と判断しました。


 

つまり、従業員が、長期かつ連続の年休取得の申請を行った場合には、会社との間で、会社の業務計画、他の従業員の休暇予定等について事前に調整を図る必要があり、従業員が、この調整を行う余裕がない時季に年休取得を申請したり、会社からの調整に全く応じないような場合には、会社は、合理的な範囲で時季変更権を行使すれば認められると考えられます。


もっとも、長期かつ連続の年休取得でなければ、時季変更権の行使はハードルが高いといえます。


労働基準法では、労働者の過半数代表との協定により、年休5日間以上を従業員が自由に取得できるようにすれば、残りの年休については、計画的に付与することが認められています。そのため、時季変更権を行使で対応するのではなく、計画年休の付与によって、繁忙期以外に年休を付与したほうが対策としては有効と思われます。


また、平成22年4月1日施行の改正において、労働者の過半数代表との協定により、年に5日を限度として、時間単位で年休を与えることができることになりました。通院治療や介護の付添など1日すべて休む必要がない場合などに、このような時間単位の年休制度を導入して、年休の取得促進を図るのも1つの方法です。


<関連記事>

営業社員には残業代を支払わなくてもよいか

http://www.mng-ldr.com/column/2014/04/21/post-20.php


年俸制の場合、残業代は発生するのか

http://www.mng-ldr.com/column/2014/04/28/post-21.php

 

 


<著者プロフィール>

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つなぐナビ登録士業

弁護士 石居 茜(いしい あかね)

ロア・ユナイテッド法律事務所パートナー弁護士


 

専門分野は労働法。人事労務を中心に会社の法律相談、労働審判、訴訟などを担当しています。特徴としては、就業規則の作成・改定・給与体系の見直しができ、残業請求対策を提案します。最近は、・相続・中小企業の事業承継にも力を入れています。現在財団法人ベターホーム協会の社外理事を務めています。

連絡先:
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