コラムBOX

2013年05月22日

中小企業CSRの最新事例 - 前編 -

本業を通じた社会貢献を実践するソーシャルプリンティングカンパニーの事例をご紹介します。

【コラム/中小企業CSRの最新事例】

 

著者:河内山信一(こうちやま しんいち)

株式会社シン・ファンドレイジングパートナーズ 代表取締役

ファンドレイザー(日本ファンドレイジング協会 准認定ファンドレイザー)

 

 

【コラム/中小企業CSRの最新事例】
株式会社大川印刷(http://www.ohkawa-inc.co.jp)
【前編】
本業を通じた社会貢献を実践する
ソーシャルプリンティングカンパニー
中小企業の経営者とCSRの話をすると必ず費用対効果を求める話になりますが、CSRでは費用対効果ではなく投資対効果(ROI)を考えることが大切です。「本気のCSR経営が、企業に競争力を与える」。それを実践している企業を取材してきました。
今回インタビューさせていただきましたのは、日本で初めて「ソーシャルプリンティングカンパニー」というビジョンを掲げ、印刷を通じた社会貢献を行う創業130年を超える老舗印刷会社、株式会社大川印刷の代表取締役社長大川哲郎さんです。
 
 
株式会社大川印刷 代表取締役社長 大川哲郎さん
◎CSRで企業内に新たな風を起こす
中小企業が持続して生き残るためには、地域に根差した「地域企業」になるべきだと思います。大川印刷は130年も続いていますが、130年続いていることがすごいということではなく、なぜ続けられているかを正しく理解する必要があります。企業として変化に対応していくだけでは130年も続きません。“新しく変化を創造し続けていく”ことが大切で、そのために企業内で新たな事業を起こすことを常に考えています。ただ、新しい事業を始めたとしても、起業して5年で85%の企業が消えてしまうというデータがあるように、生半可な気持ちでは100年以上も持続する事業は作れません。これからも必要とされる企業として経営していくためは、積極的に新しい取り組みにチャレンジしていく必要があり、ES(従業員満足)、CS(顧客満足)、CSR(企業の社会的責任)の素敵な関係を築くことで、地球や社会に必要とされる人と企業を目指しています。
2004年、企業のミッションを「地域や社会に必要とされる人と企業になり、 社会に貢献できる人財を世の中に輩出し続けること」と定義し、事業のキャッチコピーを「本業を通じた社会貢献を実践する、ソーシャルプリンティングカンパニー」としました。
このソーシャルプリンティングカンパニーを達成するために、「CSR(Corporate Social Responsibility)=企業の社会責任」について真摯に取り組んでいます。
その取り組みとは、本業を通じたCSRを推進すること。印刷を通して社会の役に立つことができないか、社会問題の解決の糸口になることはできないかを常に模索しながら進めています。
◎「印刷」は社会をより良く変えていく手段の一つ
 
CSRについて考え始めたのは、横浜青年会議所で「企業の社会貢献」について学んだことからでした。そのとき出会ったのが、服飾デザイナーの井崎孝映さんです。井崎さんは「洋服を通じて社会を変えたい」という思いから、単なるユニバーサルデザインと呼ぶものではなく、障がいの有無にかかわらず、誰にとっても着やすく、そしてファッショナブルな洋服を作っておられます。彼女の言葉を通じて、そのときの自分が「手段の目的化」に陥っていることに気付いたのです。当時はバブルが崩壊して売り上げが落ちていたこともあり、自分の仕事は「印刷物の受注=売り上げの確保」だと思っていました。しかし、我々のすべきことは社会をより良いものに変えていくことであり、その手段の一つとして印刷というビジネスがある、と。印刷はありとあらゆる業界に入り込んでいるという珍しい業種で、たくさんの業界と接点を持っています。だからこそ、さまざまな業界における課題解決のプロジェクトを立ち上げることも可能と気が付いたのです。
 
このことがきっかけで、2004年に「ソーシャルプリンティングカンパニー」というビジョンを掲げました。環境問題、高齢化、医療過誤などのさまざまな地域の社会問題に対して印刷を通じて解決していくというビジョンです。
◎本業の見直しから取り組みをスタート
従来の“お役立ち”である印刷はもちろんのこと、持続可能な社会作りのために、社会的課題に対しても本業での社会貢献を追求するのが大川印刷のスタンスです。最初の取り組みは、本業の見直しでした。
○環境配慮だけでなく職場改善
世界でもトップレベルといわれる日本の印刷技術。大川印刷では、刷り上がりの“品質”だけではなく、印刷に使われるインキも印刷の“品質”と捉えて、大気汚染や化学物質過敏症の原因となる揮発性有機化合を含まないノンVOCインキ(石油系溶剤0%)を業界に先駆け使用を開始。また、印刷機用溶剤も2008年度から全て有機溶剤に該当しない製品を使用し、全ての印刷機の湿し水(しめしみず)のノンアルコール化も行いました。
インクを変えることで刺激臭がない印刷現場になりました。環境に対する取り組みが人に対する取り組みになり、結果的に従業員が働きやすい職場環境を作り上げることができました。
○オープントイレプロジェクト
横浜を誰もが暮らしやすい、また、安心して楽しく観光していただける街にするべく、取り組みを開始しました。
高齢者の方・車いすを使用されている方、オムツ離れをしていないお子さまがいる方、オストメイト(人工肛門保有者)の方など、食事やショッピングや散歩に出掛けた際、近くにトイレがあるか確認できないと楽しく過ごすことができないみなさんのために、トイレの貸し出しが可能な店舗や施設の情報共有を、NPO法人Checkと大川印刷の協働プロジェクトとして行いました。プロジェクトにご賛同いただいた店舗・施設は、店舗や施設の入り口にトイレを貸し出していることを伝えるステッカーを貼り付け、お客さまにお知らせしています。
 
また、ステッカーだけでなく、ウェブやスマートフォン専用アプリに加え、多機能トイレはgoogle map、NAVITIME、カーナビゲーションシステム(2012年5月から)などに情報共有されています。
    
○横浜ひとまち百景プロジェクト
2008年に東京の湯島本郷でスタートした「マーチング委員会」の横浜マーチング委員会事務局として、横浜のひと・まち、そして自然や環境など、地域の観光資源をイラスト化し、地域の誇りや自慢を再発見する「まちおこし」の活動にも取り組んでいます。
横浜市都筑区のコミュニティカフェ「いのちの木」で、大川印刷インターン生と、いのちの木インターン生とのコラボレーションによる「ふるさとひとまち百景」イラスト展を開催。そこで、地元のお年寄りに思い出を語っていただくなど、若者との交流の場を作ることで、お年寄りの心を元気にするお手伝いをしました。
また、地元郵便局前で開催されたイベントでもイラスト展を開催するとともに、このイラストを活用した絵はがきを販売するなど、地域貢献を行っています。
  
ほかにもさまざまな社会貢献を行っていますが、ポイントは、本業を通じた社会貢献を行っていること。では、どのような組織運営でこのような社会貢献を行っているのか。後編では組織についてお話しします。
<企業概要>
株式会社大川印刷(http://www.ohkawa-inc.co.jp/)
代表取締役社長:大川哲郎 
創業:1881年(明治14年)  
本社・工場:〒245-0053 横浜市戸塚区上矢部町2053
従業員:42人(平成25年4月現在) 

■中小企業CSRの最新事例

 

 

株式会社大川印刷  【前編】

http://www.ohkawa-inc.co.jp/

本業を通じた社会貢献を実践するソーシャルプリンティングカンパニー


中小企業の経営者とCSRの話をすると必ず費用対効果を求める話になりますが、CSRでは費用対効果ではなく投資対効果(ROI)を考えることが大切です。「本気のCSR経営が、企業に競争力を与える」。それを実践している企業を取材してきました。


今回インタビューさせていただきましたのは、日本で初めて「ソーシャルプリンティングカンパニー」というビジョンを掲げ、印刷を通じた社会貢献を行う創業130年を超える老舗印刷会社、株式会社大川印刷の代表取締役社長大川哲郎さんです。

 

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株式会社大川印刷

代表取締役社長 大川哲郎さん


◎CSRで企業内に新たな風を起こす

中小企業が持続して生き残るためには、地域に根差した「地域企業」になるべきだと思います。大川印刷は130年も続いていますが、130年続いていることがすごいということではなく、なぜ続けられているかを正しく理解する必要があります。

 

企業として変化に対応していくだけでは130年も続きません。“新しく変化を創造し続けていく”ことが大切で、そのために企業内で新たな事業を起こすことを常に考えています。ただ、新しい事業を始めたとしても、起業して5年で85%の企業が消えてしまうというデータがあるように、生半可な気持ちでは100年以上も持続する事業は作れません


これからも必要とされる企業として経営していくためは、積極的に新しい取り組みにチャレンジしていく必要があり、ES(従業員満足)、CS(顧客満足)、CSR(企業の社会的責任)の素敵な関係を築くことで、地球や社会に必要とされる人と企業を目指しています。


2004年、企業のミッションを「地域や社会に必要とされる人と企業になり、 社会に貢献できる人財を世の中に輩出し続けること」と定義し、事業のキャッチコピーを「本業を通じた社会貢献を実践する、ソーシャルプリンティングカンパニー」としました。


このソーシャルプリンティングカンパニーを達成するために、「CSR(Corporate Social Responsibility)=企業の社会責任」について真摯に取り組んでいます。


その取り組みとは、本業を通じたCSRを推進すること。印刷を通して社会の役に立つことができないか、社会問題の解決の糸口になることはできないかを常に模索しながら進めています。


◎「印刷」は社会をより良く変えていく手段の一つ

 

CSRについて考え始めたのは、横浜青年会議所で「企業の社会貢献」について学んだことからでした。そのとき出会ったのが、服飾デザイナーの井崎孝映さんです。井崎さんは「洋服を通じて社会を変えたい」という思いから、単なるユニバーサルデザインと呼ぶものではなく、障がいの有無にかかわらず、誰にとっても着やすく、そしてファッショナブルな洋服を作っておられます。

 

彼女の言葉を通じて、そのときの自分が「手段の目的化」に陥っていることに気付いたのです。当時はバブルが崩壊して売り上げが落ちていたこともあり、自分の仕事は「印刷物の受注=売り上げの確保」だと思っていました。しかし、我々のすべきことは社会をより良いものに変えていくことであり、その手段の一つとして印刷というビジネスがある、と。印刷はありとあらゆる業界に入り込んでいるという珍しい業種で、たくさんの業界と接点を持っています。だからこそ、さまざまな業界における課題解決のプロジェクトを立ち上げることも可能と気が付いたのです。

 

このことがきっかけで、2004年に「ソーシャルプリンティングカンパニー」というビジョンを掲げました。環境問題、高齢化、医療過誤などのさまざまな地域の社会問題に対して印刷を通じて解決していくというビジョンです。



◎本業の見直しから取り組みをスタート


従来の“お役立ち”である印刷はもちろんのこと、持続可能な社会作りのために、社会的課題に対しても本業での社会貢献を追求するのが大川印刷のスタンスです。最初の取り組みは、本業の見直しでした。


○環境配慮だけでなく職場改善

世界でもトップレベルといわれる日本の印刷技術。大川印刷では、刷り上がりの“品質”だけではなく、印刷に使われるインキも印刷の“品質”と捉えて、大気汚染や化学物質過敏症の原因となる揮発性有機化合を含まないノンVOCインキ(石油系溶剤0%)を業界に先駆け使用を開始。また、印刷機用溶剤も2008年度から全て有機溶剤に該当しない製品を使用し、全ての印刷機の湿し水(しめしみず)のノンアルコール化も行いました。


インキ成分.JPG

インクを変えることで刺激臭がない印刷現場になりました。環境に対する取り組みが人に対する取り組みになり、結果的に従業員が働きやすい職場環境を作り上げることができました。


○オープントイレプロジェクト

横浜を誰もが暮らしやすい、また、安心して楽しく観光していただける街にするべく、取り組みを開始しました。


高齢者の方・車いすを使用されている方、オムツ離れをしていないお子さまがいる方、オストメイト(人工肛門保有者)の方など、食事やショッピングや散歩に出掛けた際、近くにトイレがあるか確認できないと楽しく過ごすことができないみなさんのために、トイレの貸し出しが可能な店舗や施設の情報共有を、NPO法人Checkと大川印刷の協働プロジェクトとして行いました。プロジェクトにご賛同いただいた店舗・施設は、店舗や施設の入り口にトイレを貸し出していることを伝えるステッカーを貼り付け、お客さまにお知らせしています。

ステッカー.JPG 

また、ステッカーだけでなく、ウェブやスマートフォン専用アプリに加え、多機能トイレはgoogle map、NAVITIME、カーナビゲーションシステム(2012年5月から)などに情報共有されています。

    

 

トイレチェックイメージ左.jpgのサムネイル画像//トイレチェックイメージ右.jpgのサムネイル画像

○横浜ひとまち百景プロジェクト

2008年に東京の湯島本郷でスタートした「マーチング委員会」の横浜マーチング委員会事務局として、横浜のひと・まち、そして自然や環境など、地域の観光資源をイラスト化し、地域の誇りや自慢を再発見する「まちおこし」の活動にも取り組んでいます。


横浜市都筑区のコミュニティカフェ「いのちの木」で、大川印刷インターン生と、いのちの木インターン生とのコラボレーションによる「ふるさとひとまち百景」イラスト展を開催。そこで、地元のお年寄りに思い出を語っていただくなど、若者との交流の場を作ることで、お年寄りの心を元気にするお手伝いをしました。

 

横浜.jpg


また、地元郵便局前で開催されたイベントでもイラスト展を開催するとともに、このイラストを活用した絵はがきを販売するなど、地域貢献を行っています。

  

郵便局.jpg

ほかにもさまざまな社会貢献を行っていますが、ポイントは、本業を通じた社会貢献を行っていること。では、どのような組織運営でこのような社会貢献を行っているのか。後編では組織についてお話しします。


<企業概要>

株式会社大川印刷 (http://www.ohkawa-inc.co.jp/

代表取締役社長:大川哲郎 

創業:1881年(明治14年)  

本社・工場:〒245-0053 横浜市戸塚区上矢部町2053

従業員:42人(平成25年4月現在) 

 

 

 


 

<関連記事>

第1回 よく耳にするけど、よくわからない「CSRって何?」

http://www.mng-ldr.com/column/2012/11/22/csr.php


第2回 中小企業に必要なCSRの考え方とは?

http://www.mng-ldr.com/column/2012/12/27/post-8.php


第3回 「守りのCSR」から始めよう

http://www.mng-ldr.com/column/2013/02/14/csr-1.php


第4回 自社だからこそできる「攻めのCSR」に目を向けよう

http://www.mng-ldr.com/column/2013/04/16/post-12.php

 

第6回 中小企業CSRの最新事例 - 後編 - 

http://www.mng-ldr.com/column/2013/06/10/-----1.php



<著者プロフィール>


河内山信一(こうちやま しんいち)


■株式会社シン・ファンドレイジングパートナーズ 代表取締役

■ファンドレイザー(日本ファンドレイジング協会 准認定ファンドレイザー)


≪経歴≫

1973年生まれ 東京都出身

1997年 東洋大学経済学部卒 

1997年から2007年 株式会社スタンダード通信社。営業職。大手精密機器メーカー、大手飲料メーカー、大手金融、政府外郭団体など数多く担当。主に企業の環境コミュニケーション担当として広告企画からイベント運営まで幅広く担当。2003年に大手精密機器メーカーのCSR事業準備室の立ち上げに参加、2005年愛知万博では政府外郭団体のパビリオンのイベント運営を担当など、環境やCSR周りを主に担当。 

2007年から2012年 株式会社電通。営業職。 大手総合家電メーカーの企業環境コミュニケーションなどを担当。 

2012年3月 電通を退社。

広告代理店スキルを持って社会貢献では何ができるかを考え、ファンドレイザーを目指す。 

2012年8月 第1回日本ファンドレイジング協会准認定ファンドレイザー試験に合格。 

2012年10月 株式会社シン・ファンドレイジングパートナーズを設立。 NPOなど非営利団体のファンドレイジング(資金調達)を基本としたコンサルティングを主な事業とし、企業のCSR担当者やCRM検討されている担当者に「本業に繋がるCSR」のご提案やコンサルティングも行っています。

無料相談なども行っていますのでHPから気軽にお尋ね下さい。


株式会社シン・ファンドレイジングパートナーズ

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