コラムBOX

2013年02月14日

障害者虐待防止法施行によって、障害者雇用企業の対応はどう変わる?

気を引き締めて、障害者への虐待防止に努めよう

障害者虐待防止法施行によって、障害者雇用企業の対応はどう変わる?

 

著者:寺島優子

 

障害者虐待防止法施行によって、障害者雇用企業の対応はどう変わる?
著者:寺島優子
気を引き締めて、障害者への虐待防止に努めよう
障害者の法定雇用率が平成25年4月1日から引き上げられます。それによって、障害者を雇用しなければならない事業主の範囲が、現行の従業員56人以上から、50人以上に変わります。
障害者雇用の推進には、障害者が健常者と同じように地域の一員として、誇りを持って暮らして行ける社会の実現を目指すこと、そのための一歩として、職業による自立を進めようという背景があります。
法定雇用率を満たさない企業には課徴金が課せられます。反対に、雇用義務数より多く雇う企業には調整金や、施設設備費の助成が行われています。
障害者の雇用の促進に関する法律によって、現在多くの企業で障害者雇用が進んでいます(現行の法定雇用率1.8%に対し、達成率1.69%)。
障害者の適性は本人の障害状況や特性によって決まるため、一律ではありません。雇うにあたり、障害者の現状を把握することが必要となってくるでしょう。
雇った企業からは全体の職場環境の活性化がなされたという喜びの声が多く聞かれます。ぜひ、この機会に真剣に障害者の雇用を検討してみていただきたいと思います。
企業が知っておくべき「障害者虐待防止法」
今回お伝えするのは、障害者の雇用を進める企業が、知っておかなければならない法律についてです。皆さんは、2012年10月に施行された障害者虐待防止法(正式名称:「障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律」)をご存知でしょうか?この法律は、長年、自分の言葉で被害を訴えられない、SOSを発する相手がいない、自分を守る術を持たないために繰り返されてきた障害者に対する虐待を、これ以上起こすことのないように、国民に通報義務を課すものです。
障害者虐待防止法の規制する虐待とは、養護者による虐待、障害者福祉施設従事者による虐待、使用者による虐待を意味します。ですから、企業にとって、雇っている障害者に対するどのような行為が虐待とされる恐れがあるのかをきちんと把握しておくことは、大きな意味があるといえます。
障害者虐待防止法で規定されている「虐待」とは?
使用者による虐待としては、下記の5つが規定されています。
1 身体的虐待
障害者の身体に外傷が生じ、もしくは生じる恐れのある暴行を加え、または正当な理由なく障害者の身体を拘束すること。
2 性的虐待
障害者にわいせつな行為をすること、または障害者をしてわいせつな行為をさせること。
3 心理的虐待
障害者に対する著しい暴言、著しく拒絶的な対応、または不当な差別的言動その他の障害者に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと。
4 介護・世話の放棄・放任
障害者を衰弱させるような著しい減食、または長時間の放置、当該事業所に使用される他の労働者による前3号に掲げる行為と同様の行為の放置その他これらに準ずる行為を行うこと。
5 経済的虐待
障害者の財産を不当に処分することその他障害者から不当に財産上の利益を得ること。
5つの中で注意すべき点として、1つ目の身体的虐待には、正当な理由なく障害者の身体を拘束すること、つまり身体拘束を含みます。また、4つ目のいわゆるネグレクトには、職場において他の労働者が身体的虐待・性的虐待・心理的虐待を行っているのにも関わらず、これを放置したり、防止する手立てを取らないことを含みます。
障害者虐待防止法による使用者とは、障害者を雇用する事業主、または事業の経営担当者、その他その事業の労働者に関する事項について事業主のために行為をする者、つまり、会社と経営者だけでなく労働者に関して人事、給与、厚生、労務管理などの労働条件の決定や業務命令の発出、具体的な指導監督について、事業主のために行為をする全ての者を含んでいます。ですから、経営者だけが注意しているのでは足りません。これらの使用者に該当する各労働者に対しても注意喚起のための研修を実施したり、障害者や家族からの苦情受付窓口を設けるなどの苦情処理体制の整備等、虐待を起こさないための環境作りを会社全体で推進していかないと、思わぬところで足元をすくわれかねません。
虐待を届け出るのは、障害者自身はもちろんですが、発見者全員に通報義務が課せられています。また、通報したことを原因とする不利益な取り扱いは許されません。解雇などもっての外です。
通報を受けた市町村または都道府県は、労働局に報告し、結果、厚生労働大臣がその実態を公表する流れとなっています。もちろん、公表されたときの企業イメージだけの問題ではなく、慰謝料を請求される、刑事責任の追及を受けることも考え得るリスクです。これは被害者が健常者であれば当然請求されるのですから、障害者であっても当然のことなのです。
障害者への虐待防止は働きやすい職場作りにつながる
ここで、虐待の例を見てみましょう。
1 身体的虐待
殴る。蹴る。言うことを聞かないからとつねる。
2 性的虐待
本人の前でわいせつな言葉を発する。わいせつな映像を見せる。性的行為を強要する。
3 心理的虐待
「あなたの親はどうなってるの」と他人のいる前で嫌味を言う。ばか、などと障害者を侮辱する言葉を浴びせる。怒鳴る。ののしる。悪口を言う。仲間に入れない。子供扱いをする。人格をおとしめるような扱いをする。話し掛けているのに意図的に無視する。支援をしながら「面倒だな」などという。
4 介護・世話の放棄・放任
汚れた服を着させ続ける。食事や水分を十分にとらせない。室内の掃除をしない。ごみを放置したままにしてあるなど劣悪な住環境の中で過ごさせる。病気やけがをしても受診させない。
5 経済的虐待
年金や賃金を渡さない。本人の同意なしに財産や預貯金を処分・運用する。日常生活に必要な金銭を渡さない・使わせない。本人の同意なしに年金等を管理して渡さない。
こうして見てみると、虐待防止法において定義されている虐待を防止することは、障害者が守られるだけでなく、企業の内部環境の向上にもつながるでしょう。反対に放置すれば、障害者だけでなく健常者である労働者にとっても働きにくい職場になってしまうのではないでしょうか。もともと虐待が起こる企業は、労働環境面において改善すべき点が多いというのはよく指摘されています。
先ほどお話した通り、労働者に対し周知するための研修をしたり、苦情窓口を設置して虐待の予防・再発防止に努めない場合には、民法の使用者責任を負うことも考えられます。
企業が人を雇う際には、その労働者の提供する労働力によって利益を得ているわけですから、労働者が犯した違法な行為に対しても、このような厳格な責任を負わなければならないのです。
また、企業には、安全配慮義務といって、雇った労働者に対して安全な職場環境を整える義務があります。この場合の安全な職場環境とは、危険作業や有害物質への対策はもちろんですが、メンタルヘルス対策も使用者の安全配慮義務に当然含まれると解釈されています。危険な心的物的環境に労働者を置いておきながら、その結果生じた損害を見て見ぬふりなどできないのです。安全配慮義務を怠った場合、不法行為責任、使用者責任、債務不履行等を根拠に、使用者に多額の損害賠償を命じる判例が多数存在します。
差別と違って、虐待は対等な当事者間に起きるものではありません。最初から虐待をしようと思って雇う企業があるわけでもないと思います。「これくらいはいいだろう」と思う主張や行動が、反駁(はんばく)できない弱い立場の障害者側の対応で徐々にエスカレートしていく、そういう流れが虐待へと発展していっているのではないでしょうか。障害者に対する虐待で問題になった企業の中には、福祉に熱心な優良企業も多かったのです。
障害者虐待防止法ができて、初めて声を上げることができるようになる社員もいるでしょう。実際、児童および高齢者虐待防止法と同じように、障害者虐待防止法も、施行後の通報件数はかなりの数になっているようです。虐待があってもそれを止めることのできなかった声なき声が、法律の後押しによって表に出るようになったのです。ですから、企業としては、虐待防止法施行後は気を引き締めて、その予防に努めなければなりません。
障害者虐待防止法の趣旨をご理解いただき、ぜひ障害者の共生を支える企業として、一歩を踏み出してみようではありませんか。
<著者プロフィール>
寺島優子(てらしま ゆうこ)

気を引き締めて、障害者への虐待防止に努めよう


障害者の法定雇用率が平成25年4月1日から引き上げられます。それによって、障害者を雇用しなければならない事業主の範囲が、現行の従業員56人以上から、50人以上に変わります。障害者雇用の推進には、障害者が健常者と同じように地域の一員として、誇りを持って暮らして行ける社会の実現を目指すこと、そのための一歩として、職業による自立を進めようという背景があります。


法定雇用率を満たさない企業には課徴金が課せられます。反対に、雇用義務数より多く雇う企業には調整金や、施設設備費の助成が行われています。障害者の雇用の促進に関する法律によって、現在多くの企業で障害者雇用が進んでいます(現行の法定雇用率1.8%に対し、達成率1.69%)。


障害者の適性は本人の障害状況や特性によって決まるため、一律ではありません。雇うにあたり、障害者の現状を把握することが必要となってくるでしょう。


雇った企業からは全体の職場環境の活性化がなされたという喜びの声が多く聞かれます。ぜひ、この機会に真剣に障害者の雇用を検討してみていただきたいと思います。


企業が知っておくべき「障害者虐待防止法」

 

今回お伝えするのは、障害者の雇用を進める企業が、知っておかなければならない法律についてです。皆さんは、2012年10月に施行された障害者虐待防止法(正式名称:「障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律」)をご存知でしょうか?この法律は、長年、自分の言葉で被害を訴えられない、SOSを発する相手がいない、自分を守る術を持たないために繰り返されてきた障害者に対する虐待を、これ以上起こすことのないように、国民に通報義務を課すものです。


障害者虐待防止法の規制する虐待とは、養護者による虐待、障害者福祉施設従事者による虐待、使用者による虐待を意味します。ですから、企業にとって、雇っている障害者に対するどのような行為が虐待とされる恐れがあるのかをきちんと把握しておくことは、大きな意味があるといえます。


障害者虐待防止法で規定されている「虐待」とは?


使用者による虐待としては、下記の5つが規定されています。


1 身体的虐待

障害者の身体に外傷が生じ、もしくは生じる恐れのある暴行を加え、または正当な理由なく障害者の身体を拘束すること。


2 性的虐待

障害者にわいせつな行為をすること、または障害者をしてわいせつな行為をさせること。


3 心理的虐待

障害者に対する著しい暴言、著しく拒絶的な対応、または不当な差別的言動その他の障害者に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと。


4 介護・世話の放棄・放任

障害者を衰弱させるような著しい減食、または長時間の放置、当該事業所に使用される他の労働者による前3号に掲げる行為と同様の行為の放置その他これらに準ずる行為を行うこと。


5 経済的虐待

障害者の財産を不当に処分することその他障害者から不当に財産上の利益を得ること。


5つの中で注意すべき点として、1つ目の身体的虐待には、正当な理由なく障害者の身体を拘束すること、つまり身体拘束を含みます。また、4つ目のいわゆるネグレクトには、職場において他の労働者が身体的虐待・性的虐待・心理的虐待を行っているのにも関わらず、これを放置したり、防止する手立てを取らないことを含みます。


障害者虐待防止法による使用者とは、障害者を雇用する事業主、または事業の経営担当者、その他その事業の労働者に関する事項について事業主のために行為をする者、つまり、会社と経営者だけでなく労働者に関して人事、給与、厚生、労務管理などの労働条件の決定や業務命令の発出、具体的な指導監督について、事業主のために行為をする全ての者を含んでいます。ですから、経営者だけが注意しているのでは足りません。


これらの使用者に該当する各労働者に対しても注意喚起のための研修を実施したり、障害者や家族からの苦情受付窓口を設けるなどの苦情処理体制の整備等、虐待を起こさないための環境作りを会社全体で推進していかないと、思わぬところで足元をすくわれかねません。


虐待を届け出るのは、障害者自身はもちろんですが、発見者全員に通報義務が課せられています。また、通報したことを原因とする不利益な取り扱いは許されません。解雇などもっての外です。


通報を受けた市町村または都道府県は、労働局に報告し、結果、厚生労働大臣がその実態を公表する流れとなっています。もちろん、公表されたときの企業イメージだけの問題ではなく、慰謝料を請求される、刑事責任の追及を受けることも考え得るリスクです。これは被害者が健常者であれば当然請求されるのですから、障害者であっても当然のことなのです。


障害者への虐待防止は働きやすい職場作りにつながる


ここで、虐待の例を見てみましょう。


1 身体的虐待

殴る。蹴る。言うことを聞かないからとつねる。


2 性的虐待

本人の前でわいせつな言葉を発する。わいせつな映像を見せる。性的行為を強要する。


3 心理的虐待

「あなたの親はどうなってるの」と他人のいる前で嫌味を言う。ばか、などと障害者を侮辱する言葉を浴びせる。怒鳴る。ののしる。悪口を言う。仲間に入れない。子供扱いをする。人格をおとしめるような扱いをする。話し掛けているのに意図的に無視する。支援をしながら「面倒だな」などという。


4 介護・世話の放棄・放任

汚れた服を着させ続ける。食事や水分を十分にとらせない。室内の掃除をしない。ごみを放置したままにしてあるなど劣悪な住環境の中で過ごさせる。病気やけがをしても受診させない。


5 経済的虐待

年金や賃金を渡さない。本人の同意なしに財産や預貯金を処分・運用する。日常生活に必要な金銭を渡さない・使わせない。本人の同意なしに年金等を管理して渡さない。


こうして見てみると、虐待防止法において定義されている虐待を防止することは、障害者が守られるだけでなく、企業の内部環境の向上にもつながるでしょう。反対に放置すれば、障害者だけでなく健常者である労働者にとっても働きにくい職場になってしまうのではないでしょうか。もともと虐待が起こる企業は、労働環境面において改善すべき点が多いというのはよく指摘されています。


先ほどお話した通り、労働者に対し周知するための研修をしたり、苦情窓口を設置して虐待の予防・再発防止に努めない場合には、民法の使用者責任を負うことも考えられます。


企業が人を雇う際には、その労働者の提供する労働力によって利益を得ているわけですから、労働者が犯した違法な行為に対しても、このような厳格な責任を負わなければならないのです。


また、企業には、安全配慮義務といって、雇った労働者に対して安全な職場環境を整える義務があります。この場合の安全な職場環境とは、危険作業や有害物質への対策はもちろんですが、メンタルヘルス対策も使用者の安全配慮義務に当然含まれると解釈されています。危険な心的物的環境に労働者を置いておきながら、その結果生じた損害を見て見ぬふりなどできないのです。安全配慮義務を怠った場合、不法行為責任、使用者責任、債務不履行等を根拠に、使用者に多額の損害賠償を命じる判例が多数存在します。


差別と違って、虐待は対等な当事者間に起きるものではありません。最初から虐待をしようと思って雇う企業があるわけでもないと思います。「これくらいはいいだろう」と思う主張や行動が、反駁(はんばく)できない弱い立場の障害者側の対応で徐々にエスカレートしていく、そういう流れが虐待へと発展していっているのではないでしょうか。障害者に対する虐待で問題になった企業の中には、福祉に熱心な優良企業も多かったのです。


障害者虐待防止法ができて、初めて声を上げることができるようになる社員もいるでしょう。実際、児童および高齢者虐待防止法と同じように、障害者虐待防止法も、施行後の通報件数はかなりの数になっているようです。虐待があってもそれを止めることのできなかった声なき声が、法律の後押しによって表に出るようになったのです。ですから、企業としては、虐待防止法施行後は気を引き締めて、その予防に努めなければなりません。


障害者虐待防止法の趣旨をご理解いただき、ぜひ障害者の共生を支える企業として、一歩を踏み出してみようではありませんか。


 


 

<著者プロフィール>


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司法書士 寺島優子

神奈川県司法書士会第1813 

簡裁訴訟代理業務認定第1001224 


寺島司法書士事務所 

〒259-0123

神奈川県中郡二宮町二宮1324番地1 1階 

TEL 0463-79-8697

 


 

 

 

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