実務BOX

2012年10月19日

従業員の「自転車通勤」への企業の対応は?

自動車通勤と同様、起こりうるリスクを想定した規定の整備が必要

 

 近年のエコブームや健康志向の拡がりに加えて、東日本大震災の折に公共交通機関が長時間に渡って交通マヒしたこと等もあり、都心部を中心として自転車通勤をする人が増えています。と同時に自転車による事故の報道も多く見受けられるようになり、社会問題ともなっています。

 

 転倒や自動車等との接触による自転車運転者の被害事故ばかりでなく、自転車運転者側が加害者となるケースも少なくなく、警視庁の発表によると平成23年中に自転車による対歩行者事故は全国で2,801件あり、特にそのうち約4割にあたる1,010件が都内で起きたものというデータもあります。こういった自転車による事故が起こった場合、自転車通勤を容認する企業では、企業の「使用者責任」が問われる場合があります。そこで、自転車通勤のリスクを十分に検討し、企業として自転車通勤を認めるかどうかを早急に判断する必要があるでしょう。自転車通勤について検討し、もし認めるならば、申請方法・許可基準など一定のルールを整備する必要があります。

 


自転車通勤は許可制に

 


 自転車通勤について一定の基準を設け、「自転車通勤規定」を整備し、運用します。従業員には「自転車通勤」の許可申請を求め、許可制とするのがよいでしょう。許可基準としては、次の3点が考えられます。

 

(1)"自転車"の定義

 

 俗にママチャリと呼ばれる一般的なシティサイクルから、クロスバイク、競技用など自転車にもさまざまなタイプのものがあります。例えば、昨年お笑いタレントが公道で乗車して逮捕されたことで話題を呼んだピストバイクは、前輪または前後輪にブレーキがない自転車で、道路交通法上は整備不良の自転車であり、公道を走行することは禁じられています。また、電動アシスト自転車は道路交通法では自転車、ペダル付電動自転車は原動機付自転車に該当します。さらに原動機付自転車についても「自転車通勤」の自転車に含まれるか明確にしておきましょう。

 

 

(2)運転者の資格・禁止事項

 

 自転車通勤を希望する者の過去の自転車利用に関する道路交通法の違反歴、疾病その他の状態により運転が可能か、通勤距離・ルート等から自転車通勤が妥当かどうかを検討します。極端に長距離の自転車通勤になると、疲労で就業に支障が出てしまうことも考えられます。また、「携帯電話を使用しながらの運転」「飲酒運転」「傘をさしての運転」「整備不良の自転車の運転」の禁止など、道路交通法遵守を徹底させ、違反した場合は自転車通勤の許可を取り消す措置も必要です。

 

 

(3)民間保険の加入


 自転車事故は近年、社会問題になっているものの、未だ自転車事故の危険性の認識は十分とはいえず、自転車向けの保険は普及しているとはいえませんが、自転車事故にかかわる裁判では、以下のような高額な損害賠償が必要となるケースも多く存在します。

 


●信号無視した37歳の男性の自転車が、横断歩道を歩行中の女性に衝突、被害者女性は死亡・・・損害賠償額5,438万円
●夜間に無灯火で携帯電話を使用しながら自転車に乗った女子高校生が、前方歩行女性に衝突、被害者に重大な障害が残った・・・損害賠償額5,000万円

 


 もし、事故を起こし、通勤者本人に支払い能力がなければ、自転車通勤を容認した企業に使用者責任が及ぶことも考えられます。

 

 対策としては、民間保険の加入の義務付けです。自転車通勤の申請時に、加入する保険証券の提出を求め、契約更新時にも書類の提出を求めるなど継続して確認することが必要です。

 

 例えば、「TSマーク付帯保険」は、TSマークの貼られた自転車を運転中に事故を起こした際に、自転車運転者が交通事故により障害を負った場合に適用される「傷害補償」と、自転車運転者が第三者に傷害を負わせてしまった場合に適用される「賠償責任補償」があります。賠償責任補償は、最高2,000万円を限度に支払われる保険です。

 

 従業員の通勤による負傷には労災保険が適用されます。通勤労災は、住居と就業の場所との間を「合理的な経路および方法」で移動する事故が対象となります。通勤経路を逸脱中、あるいは中断以降は通勤労災の対象となりません。自転車通勤者にこの点をよく説明し、合理的な経路を外れるリスクを理解させておく必要があります。

 


駐輪場の手配は?通勤手当はどうする?


 企業で駐輪場を準備する場合は、指定した場所に駐輪することを義務付けます。その際、駐輪場の利用についてもルールを明確にしておきます。自転車通勤の許可申請を行う際に、社内駐輪場の使用許可申請も同時に行うようにしてもらい、会社の許可を得るようにするとよいでしょう。また、従業員が駐輪場を準備するならば、書類等を提出させ確保したことを確認します。近年は、放置自転車が各自治体で問題視されており、自転車の違法駐輪を黙認することがあれば企業の管理責任が問われます。企業あるいは従業員が準備した駐輪場の費用について明確にしておきましょう。

 

 通勤手当の支給は法令で求められているものではありません。従って、通勤手当を実費補填と位置付けるならば、自転車通勤者に通勤手当を支給しないことも可能です。しかし、自転車通勤の場合、自転車の多少のメンテナンス費がかかります。これを個人負担とするのか、会社負担とするのか、この点についても考慮する必要があります。また、雨の日や体調が悪い日に公共交通機関を利用すれば、実費を精算する必要も出てきます。さらに、一定の金額を自転車通勤者に通勤手当として支給する場合は、全員一律の金額では賃金と見なされる可能性がありますし、自転車のみの通勤と自転車の他に電車やバス等を利用している場合では、通勤手当の非課税限度額は異なりますので、注意しましょう。


 企業に無断で自転車通勤をしていた場合の罰則も定めておいた方がいいでしょう。例えば、公共交通機関で通勤すると届け出ていながら、実際には自転車通勤をして会社から支給された交通費を不正に得ていれば懲戒の対象になることが考えられます。

 

 近所へのお使いなど業務で、従業員の通勤用の自転車を利用し、事故を起こして加害者となった場合は、企業は使用者として損害賠償責任や運行供用責任を問われることになります。通勤用の自転車の業務利用についても事前に取り決めを定めておきましょう。

 

 自転車通勤を認めるのかそうでないのか、また、認めるのであれば「自転車通勤規定」を整備し、手続き・ルールを明確に定めておく必要があります。同時に関連する書式(「自転車通勤許可申請書」等)を用意します。手続きを明確にして運用することで、会社の管理下で自転車通勤が行われていることを従業員に周知させることとなります。

 

 


【参考書式】
 自転車通勤規定(見本).doc 

 自転車通勤許可申請書(見本).doc

 

 

 

(この記事は2012年10月19日公開のものです)

 

 

 

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