実務BOX

2012年09月05日

東日本大震災を教訓とした帰宅困難者対策

東日本大震災で新たな課題が浮き彫りになった帰宅困難者問題

 

 日々多くの人々が流入する大都市で地震等の災害が発生すれば、災害の直接的な被害から従業員や顧客の安全を守ることはもとより、被災後の従業員や顧客の帰宅支援、帰宅できない人への対応は企業の大変重要な役割となります。特に、大勢の市民が帰宅困難となった東日本大震災では新たな帰宅困難者問題も浮き彫りになり、首都圏始め、大都市では帰宅困難者対策は企業の課題としてとらえる必要があります。

 

≪帰宅困難者とは≫
 帰宅困難者とは、地震などの災害により交通手段が絶たれたために、帰宅する方法がなくなってしまった人のことをいいます。


 昨年3月11日に発生した東日本大震災では、首都圏で515万人、都内で352万人が同日中に帰宅できなかったと内閣府は推定しています。都心部では、徒歩帰宅者が歩道から車道にまであふれたことで、自動車による一斉帰宅と相まって交通渋滞の悪化を招く事態にまでなってしまいました。このような大量の徒歩帰宅者の車道流出は、ともすれば救急車などの緊急車両が通行できないという二次的な問題も引き起こしかねません。緊急車両の通行を阻害してしまうことで、助かる命が助からないという事態になりかねない、ということも認識すべきです。また、東日本大震災では首都圏は雨ではありませんでしたが、災害時に雨が降るなど傘が必要な状況になれば、さらに歩道が混雑するということも考えられます。
 このような事態も想定して、帰宅困難者対策を見直す必要があります。

 

≪帰宅困難者対策の基本は「むやみに移動させない」≫
 首都直下地震等のような大規模災害が発生し、鉄道等の公共交通機関が当分の間、復旧の見通しがない中、多くの人が帰宅を開始しようとすれば、火災や建物倒壊等により、自らが危険にさらされるだけでなく、発災後に優先して実施しなければならない救助・救援活動等に支障が生じる可能性があります。
内閣府による首都直下地震時の帰宅行動シミュレーションによると、翌日帰宅や時差帰宅をすることにより、道路上の混雑が緩和されるとい結果が出ています。
街の状況が落ち着きを見せるまでは"帰宅しない"、同時に企業は"帰宅させない"という姿勢が必要です。企業では、社員を帰宅させる場合には、例えば家族の無事が確認できた人については、しばらく待機あるいは翌日まで待ってから帰ってもらうといったことを検討しましょう。


 そこで、一定期間、社内に社員が滞在できるよう、食料や飲料水、毛布、災害用トイレ等の備蓄を進めることも必要になります。帰宅困難者の備蓄に関しては、たとえば東京都では、事業者に対して社員向けの備蓄として食料や飲料水の3日分の備蓄を努力義務化することの条例化を進めています(平成25年4月施行予定)。自治体によっては備蓄物資の準備に補助金制度を用意しているところもあるので、こういった制度も活用したいものです。


   また、社員が自分の家族がどうなっているかを確認できなければ、職場に留まってもらうのも難しい話になってしまいます。災害用伝言ダイヤル171や携帯電話の「災害用伝言板」など、家族の安否確認手段や利用方法を社員に周知しておきましょう。


   さらに、訪問者や顧客が事業所内に滞在中に被災し、帰宅困難となってしまうこともありえます。そのような場合には、自社の社員と同様に、一時的に事業所内に待機できるよう、食料・飲料水、非常用トイレの備蓄、滞在スペースの確保などの準備も必要です。


 そして、社員が外出中に災害が発生した場合には、無理に帰社せず、最寄りの支店・営業所などで一時待機したり、自宅に近い場合には帰宅したりする等の行動ルールをあらかじめ事業継続計画などに明確化しておきましょう。

 

≪帰宅させる場合は支援をしっかりと≫
 家族の安否状況などにより、社員が帰宅するという場合には、帰宅の危険性を説明したうえで、企業として帰宅者をきちんと把握しましょう。
 

  内閣府中央防災会議によると、通勤に際して自宅からの距離が10km以上あると帰宅困難者が発生し、距離が1km加わる毎に1割が脱落(帰宅不能)していき、20kmでは全員脱落すると想定されています。通勤距離等を目安に、徒歩での帰宅が可能かについてあらかじめ把握しておきましょう。ただ、環境的な要素(たとえば夏場であれば気温が30?40度のような猛暑)等も加味する必要がありますし、地震による被害(火災発生、道路寸断、家屋倒壊、浸水被害など)も考えれば、単純に「家までの距離を歩ける体力がある」だけで対処できる問題ではありませんので、状況に応じた判断も必要となります。
 

 

  東日本大震災時の徒歩帰宅者は、ある調査によると普段の通勤にかかる時間の10倍程度の時間を要したといいますが、今回帰宅できたからといって同じように帰宅できるとは限らないということも認識する必要があります。東日本大震災では、首都圏は停電や断水がなく携帯電話もトイレも使用できる状況でしたが、次なる災害が起こった際にはこういったライフラインが断絶することも考えられます。また、余震がいつくるかわからない状況下であるということも忘れてはいけません。余震によって火災が発生したり、建物が倒壊してくるといった危険もあります。
 帰宅者にはこういった帰宅に伴う危険性を理解してもらったうえで、帰宅者へのしっかりとした支援をしましょう。

 

≪帰宅者への支援≫

 

・ 交通機関の運行状況や道路の被災状況、給水所、休息場所など帰宅に必要な情報を提供します。東日本大震災後は、自治体による災害時帰宅支援ステーションも増えてきているので、こういった情報についても把握しておき、帰宅者に提供しましょう。

 

 例)首都圏の災害時帰宅支援ステーション
 
http://www.9tokenshi-bousai.jp/comehome/station.html

 

・ 食料や飲料水を提供します。できれば普段から一人ひとりに配布しておきましょう。また、携帯ラジオ、地図、懐中電灯、医薬品等の携行品についてもできるだけ準備しておきましょう。

 

・ 安全に帰宅するために、方面別に集団で帰宅します。帰宅ルートは、情報が入手しやすく、自治体等の支援が受けやすい幹線道路を使うようにしましょう。

 

 

【徒歩帰宅時に役立つワンポイント】
・ワンセグ放送
地震情報の収集には、ワンセグ放送が役立ちます。ワンセグ機能がある携帯電話・スマートフォンを活用すれば公式な報道をリアルタイムに手元で見ることができます。

 

・ローカル情報はTwitterなどのSNSで
TwitterやSkypeで信頼できるグループを作っておくというのもいいことです。Skypeは携帯電話で規制がかかっているような状況でも影響されませんし、Twitterは電車の最新状況などニュースに載りにくいローカルな情報を入手することができます。

 

・Googleマップの経路検索をブックマーク
Googleマップの画面左上にある「乗り換え・ルート検索」は歩いて帰宅する時に便利です。「ルート・乗換案内」リンクをクリックして、「徒歩で行く」ボタンをクリックすれば、電車の路線に依存しない最短経路を探してくれます。(ただし、幹線道路だけでなく路地なども対象になるので、帰宅支援ステーションの有無等を勘案するのが望ましいです)

 

(この記事は2012年9月5日に公開されたものです)

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